前回までは、患者学パート 2として薬との賢い付き合い方についてお話しして来ました。 今回からはパート3として、 主な血液検査について説明していくことにします。 題して『血液検査が分かる!』です。 個々の検査項目についての説明は次回からにするとして、 今回は血液検査を読む時の心構えについてお話、 することにしましょう。
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初めに、
血液検査は完璧なものではないということ。
これは間違いが多いという意味ではなくて、
例えば脳出血の際のCTスキャンや胃癌の際の内視鏡検査などの特殊検査と違って、
血液検査の場合は一項目のみで診断を下すことは不可能だということです。
そこで血液検査は目的に応じて必ず何種類かが組み合わされて施行される訳です。
例えば、 企業の定期検診で義務付けられた最低限の血液検査はGOT・GPT・γ−GTP・総コレステロール値・中性脂肪・赤血球数・ヘモグロビン値で、 これに胸部X線と尿検査をプラスして判定します。 しかし、 この組み合わせはコスト面から決まったようなもので、 これらの項目で分かるのは肝機能障害・高脂血症・貧血の有無くらいです。 早期の糖尿病や重症肝硬変は見落としの危険性が高く、 腎障害も尿蛋白が陽性にならないものはすべて見落とされます。
また、 悪性腫瘍も肺癌以外は末期的なものでも見落とされる可能性が大です。 つまり、 血液検査で異常ないと言われたからと言って、 短絡的に自分は大丈夫なんだという誤解をしないように注意すべきだということです。 何故なら、 異常がないのは調べた項目についてだけなのですから・・・。
そして、
もう一つ、
皆さんに知っておいて欲しいのは、
血液検査の正常値というのは絶対的なものではないのだということです。
正常値というのは、
健康な人を調べて得られた数値を平均したもので、
普通は九五%の人がその範囲に含まれるように決められています。
これを裏返せば五%の人は異常がなくても正常値からは外れるということです。つまり、
大切なのは正常値の中に入っているか否かよりも、
その数値が正常値からどの程度外れているかなのです。
更に言うならば、診断には数値の時間的な変化(徐々に増えているのか、
減っているのかというような)の方が重要なのです。
最近は検査結果が正常値から外れていると報告書に*印などが付けられ、 一目で分かるようになっています。 しかし、 例えば40までが正常の検査項目の結果が41でも*印が付いて帰って来ることになります。 当然のことながら、 この程度のハミ出しは必ずしも異常とは言えない訳です。 要は血液検査というのはあくまでも相対的なもので、 病的か否かの判断は、 得られた数値の変化と関連した他の検査項目の異常の有無を見て決めることになる訳です。
次回からは個々の検査について、 その辺りのことを説明できればと考えております。 では、 乞うご期待!
前回は検査に対する考え方のコツをお話ししましたが、 今回からは各論として主な検査項目につき説明していくことにしましょう。
血液検査の中でも代表的なのがこの2つです。 いずれも生体内の細胞の中に含まれる酸素の一種です。 GOTはグルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼのGPTはグルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼの略ですが、 国際的にはGOTがAST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)、 GPTがALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)と呼ばれ、 いずれはこの名称の方が一般的になるかも知れませんが、 今回は聞き慣れた名称を用いることにします。
両者ともに一般的には肝臓機能検査の代表格として有名です。 その理由はいずれも体内で最大の臓器である肝細胞に多量に含まれ、 肝細胞が壊れると血液中に流れ込んで濃度が増すことから、 肝細胞の障害の程度を知ることが出来るからです。 即ち、肝細胞の破壊が少なければGOT、 GPTは少ししか増加しないし、 肝細胞が大量に破壊されればGOT、 GPTは著明に増加することになります。
ただ、 ここで注意が必要なのはGPTは体内でも肝細胞以外にはほとんど含まれないのに対して、 GOTの方は肝臓以外の多くの細胞、 例えば心臓・骨格筋などにもたくさん含まれるということです。 GOTが増えている場合には確かに確率からは肝臓の病気の可能性が一番高い訳ですが、 肝臓以外の病気の可能性も十分にあるということになります。 そこで多くの場合、 GPTも同時に測定される訳です。 言い換えれば、 GOTは病気の有無を知るための手段で、 GPTはその病気が肝臓のものかどうかを知るための手段ということになります。
GOTだけでは肝臓病の可能性は発見出来ても肝臓が悪いという診断は出来ませんし、 GPTだけでは肝臓病の診断は出来ても他の病気を見落としてしまいます。 この辺りが、 血液検査の限界でもあり面白いところでもあります。
正常値は施設によっても多少は異なりますが、大体はGOTで10〜40国際単位/リットル、 GPTで5〜35国際単位/リットルです。 急性肝炎の場合、 GOT、 GPTともに数百〜数千の値を示し、 慢性肝炎になると数十からせいぜい400位、 肝硬変になると数十から場合によっては正常値を示すこともあります。 また、 胆石などの胆道系の病気の時にも数十〜数百まで上昇します。 原則として以上のような肝細胞障害が中心である限り、 GPTはGOTと同じ位か少し高い数字を示しますが、 癌を合併するとGOTの方が高くなる傾向はあります。
肝臓病以外では、 心筋梗塞の時にGPTはほとんど変化せずにGOTだけが数百〜数千まで上昇しますが、 重症で心不全を合併した場合にはうっ血により肝細胞が障害を受けてGPTも数千まで増加することがあります。 また、 交通事故などの外傷や筋ジストロフィーなどの病気で骨格筋が破壊された場合にもGOTが増加することがあります。 他に赤血球の中にもGOTは多く含まれるので溶血を来す場合でも増加することがありますが、 これらの場合にはGPTは正常です。少しややこしくなったかも知れませんね。 素人判断は危険ですが、 検査で何が分かるのか、知っておいて損はないでしょう。
では、 次回をお楽しみに。
前回はGOT、 GTPについてお話ししました。 今回はその続きです。
**乳酸脱水素酵素の略で、 GOTと同じく肝細胞に豊富に含まれるので肝機能検査の一つに分類されることが多いのですが、 ほかに骨格・心臓などの筋肉を初め、 全身の細胞内にも豊富に存在するので肝疾患に特異的な項目とは言えず、 単独の上昇では診断は不可能です。 例えば、後日説明するCKが同時に増えていれば筋肉の障害が疑われ、 GPTが同時に増えていれば肝臓の障害が疑われることになります。 正常値は200〜400IU/リットル前後で、 急性心筋梗塞・筋ジストロフィーなどの筋肉疾患・肝炎・溶血性貧血・肺梗塞・悪性腫瘍などで増加します。 診断には先にも触れたように他の項目との組み合わせかアイソザイム (酵素のサブタイプですが専門的になり過ぎるので割愛します) を調べる必要があります。
γ−グルタミルトランスペプチダーゼの略です。
肝機能検査としてはGOTやGPTと同様によく知られ、
肝臓の胆道系酵素(胆汁の通り道を形成する細胞に多く含まれるのでこう呼ぶ)の一つです。
正常値は0〜401U/リットル 前後。
胆石や癌による胆汁うっ滞(黄疸を来すことが多い)の時には著明に増加し数百〜1000IU/リットルに及びます。
アルコール性肝障害の時にもこれと同様に著明に増加することが知られ、
他の各種の肝障害では数百までの増加に留まることと禁酒すれば数週間で正常化することから、
アルコール性肝障害の指標として有名です。
胆汁うっ滞とアルコール性肝障害の区別は他の胆道系酵素(後述)の上昇を伴うか否かで可能です。
アルカリフォスファターゼの略。 γ−GTPと同様に胆道系酵素の一つですが、 胆道以外に肝臓・胎盤・小腸・骨などにも多く含まれるので、 異常値の判定にはLDH同様に他の検査項目との組み合わせかアイザイムの測定が必要です。 正常値は測定方法で大幅に異なるので注意が必要ですが、 最も一般的な方法では60〜220IU/リットル前後です。 ALPは測定方法以外に年齢によっても変動があり、 小児では成人の3倍までが正常値です。 ALPは胆汁うっ滞・転移性骨腫瘍の時に著明な上昇を示します。 胆汁うっ滞の時にはγ−GTPも同時に増加し、 骨腫瘍のみではγ−GTPの増加を伴わないことから両者の区別は可能です。 他に各種肝疾患・骨折などの各種骨疾患の時にも増加を認めます。 骨転移がなくても悪性腫瘍のみでも増加を示す場合もあります。 また、 病気ではありませんが妊娠後期には胎盤由来のALPが増えて妊娠前の2〜3倍まで上昇することがあります。
**どうですか。 これで前回と併せて計5項目の検査について述べたことになりますが、 血液検査というものが何の気なしに調べて答えの出るものでないことが分かってもらえたでしょうか。 では、 次回をお楽しみに。
前回、 前々回と、 一般に肝機能検査と呼ばれている5項目の検査についてお話ししました。 今回はその続きです。
ALP総ビリルビンの略。 ビリルビンは直接型と間接型に分けられ、 その合計が総ビリルビンです。 いわゆる黄疽色素のことで、正常値は0.2〜1.2mg/デシリットル。 2mg/デシリットルを越えると黄疽が出現し、 球結膜(白目)や皮膚が黄色く見えるようになります。 胆石などの胆道系疾患や急性肝炎などの肝細胞障害では直接型が、 溶血性疾患では間接側が増加します。 どちらの型が増加しているのかを明らかにした方が診断は確実になりますが、 必ずしも測定しなくても 、例えば胆道系疾患なら前回お話ししたγ−GTPやALP、 肝細胞障害ならばGOTやGPT、 溶血ならLDHが同時に増加することから大体は推測が可能です。
それぞれチモール、 クンケルと言った方が分かり易いかも知れません。 免疫グロブリンという蛋白質の増加を間接的に調べる検査で、 免疫グロブリンが測定できるようになった現在では意義は低下し、 欧米では過去のものとなっているのですが、 わが国ではコストが安いので検診などで今でもよく利用されています。 正常値はTTTが0〜4単位、ZTTが3〜12単位。 肝硬変を初めとした肝疾患で増加することが知られていますが、 その他、慢性関節リウマチなどの膠原病や原因の如何を問わず慢性炎症でも増加します。 また、 TTT、 ZTTともに年齢とともに徐々に増加する傾向があり、 老人では病気がなくても異常値を示すことが少なくありませんし、 TTTは食後の混濁した血液では見掛け上数値が高くなるので注意が必要です。 TTT、 ZTTともに病気の診断に適した検査ではなく、 むしろ、 病気の有無の目安と考えた方がいいようです。
コリンエステラーゼの略。 肝臓の大切な働きの1つである蛋白合成の指標です。 一般に肝機能検査と呼ばれているGOT、 GPT、 γ−GTPなどの血清酵素が実は肝臓の働きではなしに肝細胞の破壊や胆汁うっ滞の程度を反映する指数であるのに対して、 このCh−Eのみが真の肝臓の機能を表していると言うことができます。 その意味で数多くある肝機能検査の中でも大切な項目の1つです。 正常値は測定法によって違いがある上に、 同じ方法でも施設によっても差があるので、 数字を判定する時には正常値の確認が欠かせません。一般には 0.6〜1.2△ PH、 又は1900〜3800IUです。 肝硬変などの肝臓の働きが低下する疾患で減少するほか、 癌や結核などの消耗性疾患や栄養失調でも減少し、 脂肪肝や糖尿病で増加します。 ネフローゼ症候群では尿中に漏れたアルブミンを補うために肝臓での合成が盛んになり増加します。
どうですか。これで今回までの3回で主な肝機能検査については述べたことになります。 余程の病状でない限り、 つまり、 自覚症状のない人なら、 これまでの説明を読みながら健康診断や人間ドックの検査結果を眺めてもらえればある程度までは自分で診断が可能だと思います。 ただし、 更に精密検査が必要だとか、 治療が必要だとかの判断は我々医者の仕事ですので、 自分一人で納得してしまうことはないようにして下さい。 では、 次回をお楽しみに。
さて、 前回はコレステロールと中性脂肪という動脈硬化の原因として有名な脂質について述べましたが、 実は動脈硬化と最も密接な関係がある病気は糖尿病です。 そこで、 今回は 血糖値について述べることにしましょう。
読んで字の如く、これは血液中のブドウ糖の濃度のことです。
この血糖値の数値を読む時に一番大事なことは、何時採血した血液なのかということです。
何故なら、血糖値というのは食事の前と後とでは随分と数値に差があるからです。つまり、
食事前なら異常な値でも食後なら問題ないというようなことが有り得る訳です。普通、
単に血糖値と言う時には空腹時の血糖値のことを示すことが多く、正常値は60〜110mg/デシリットル。そして、食後の血糖値については140mg/デシリットル以下が正常と言われています。ただし、正常の人の場合、ほとんどが食後2時間までに元のレベルに戻るようですから、食後2時間以上を経過して血糖値が140mg/デシリットルを超えていれば、やはり異常と考えるべきです。
先程の例で言えば、例えば血糖値が132mg/デシリットルとすると、これが空腹時の血糖値なら糖尿病の可能性が大になりますし、
一方、食後の血糖値としたら、食後1時間の値なら正常範囲になるし、
食後3時間の値なら異常ということになる訳です。我々医者の診断の基準としては、
空腹時の血糖値が120mg/デシリットル以上なら糖尿病の疑い有りとし、140mg/デシリットル以上なら糖尿病と考えます。また、随時血糖値(食後何時間かに拘わらずという意味)が200mg/デシリットル以上なら糖尿病と判断しています。

糖尿病の診断基準について述べた所で、話は少し本筋から外れるのですが、誤解の多い尿糖の解釈について触れておくことにします。尿糖がマイナスだと糖尿病ではないと思っている人が多いのですが、これは実は大きな間違いです。何故なら、腎機能に問題がない限り、尿の中に糖が漏れて来るのは血糖値が少なくとも170mg/デシリットルを超えてからだからです。つまり、ごく軽い糖尿病の人では空腹時の尿には糖は出て来ない訳ですから、注意して下さい。
さて、話を血糖値に戻します。血糖値が上昇する場合の話ばかりをして来ましたが、当然、下がる状態もある訳で、最後に低血糖状態について簡単に触れておくことにします。血糖値が60mg/デシリットル以下になると脱力・冷や汗・動悸などの症状が出現します。正常の人でも長時間の絶食や空腹時に激しい運動をしたりすると一時的に低血糖状態に陥ることがあります。一方、糖尿病で血糖を下げる薬を投与されている人が食事を抜かすと何等かの処置が必要な低血糖発作を起こします。また、インシュリノーマという腫瘍でも低血糖発作を繰り返します。
さて、このコーナーではこれまでに肝機能検査と脂質および糖について述べて来ました。これらのは分類上、生化学検査と呼ばれますが、今回から数回にわたっては 貧血を代表とする血液の細胞成分に関する検査である血液学的検査と呼ばれているものについて述べることにします。
まずは血液中の細胞成分の中で最も数の多い赤血球が赤いのは細胞内に含まれるヘモグロビン(後述)が酸素と結合している時だけで、炭酸ガスと結合すると青に近い色に変化します。動脈血が赤く、静脈血が青いと言うか黒っぽいのはこのためです。正常値は年令・性別でかなりの差があり、成人男子で400〜550万/µリットル、成人女子で、360〜480万/µリットルというのが標準的な値です。小児はこれよりも多少少ない目ですし、老人になると更に低い値を示します。ただ、400万や500万と言われてもピンと来ないでしょうから、少し寄り道をして説明を加えますと、血液が10ミリリットルあれば約4〜5ミリリットルが赤血球なのです(この比率が後述するヘマトクリット値)。
次に数の多い血小板が普通は15〜20万/µリットル。白血球に至っては多くて1万/µリットル弱ですから、いかに赤血球が多いかがお分かり頂けるでしょう。さて、赤血球数は出血や各種の貧血の際に減少し、脱水や多血症などで増加します。ただし、貧血の診断は赤血球数ではなしに次に述べるヘモグロビン濃度の減少で行うので、赤血球数が正常の貧血というは有り得るということだけは覚えておいて下さい。
先に触れたように赤血球の赤さの元がHbです。 この物質の主要な成分は鉄で、 鉄分が不足すると貧血になるのはこのためです。
正常値は成人男子で13〜17g /dリットル、成人女子で11〜15g /dリットル。 やはり、小児・老人では多少低い目の値を示します。
貧血の診断はこのHb濃度の低下を確認することで行います。 と言うのは、鉄を初めとする産成に必要な物質の不足があると赤血球はその大きさを変えてしまうから、 赤血球の数多寡だけでは貧血の診断が下せないからです。 また、 赤血球の一番大切な仕事は酸素を運ぶことですが、酸素はHbと結合するので、 Hbの多寡が血液の酸素運搬能力を反映することになります。そういう訳で、貧血の診断にはHb値が重視されるわけです。 臨床上、通常はHb値が11g /dリットル以下の状態を貧血と呼びます。
Hb値は当然のことながら各種の貧血に際して減少し、多血症で増加します。
今回はここまでにします。では、次回をお楽しみに。
前回の赤血球数(RBC)とヘモグロミン濃度(Hb)に続いて、 血液学的検査 について話を進めることにしましょう。
RBCが単に赤血球という細胞の数を表し、 Hbが赤血球の主成分の血液中での濃度を表しているのに対して、 血液に占める赤血球の体積の割合を示すのがヘマトクリット値です。
正常値は成人男子で40〜54%、 成人女子で32〜46%と百分率で表されます。 女性の方が男性よりは少な目で、 小児・老人ではこの値よりも更に少なくなります。
Ht値は各種貧血の際に減少し、 脱水や多血症などで増加します。
以上、RBC・Hb・Htの3つが赤血球に関する代表的な検査です。
そこで今回は少し脱線して、 総括に代えて赤血球について何故3種類もの検査が必要なのかについてお話しすることにしましょう。
結論から言えば、 その理由は貧血というのが実は病名ではなくて、 あくまで血液の状態を示す言葉に過ぎないからです。 貧血があると言うのは熱があるというのと同じことなのです。 そこで貧血をその原因応じて分類する必要が生じる訳です。
一番有名なのは鉄欠乏性貧血です。
これは慢性的な出血や鉄分の摂取不足などが原因で起こる貧血です。
RBCはあまり減らずに、
HbとHtのみが減少する小球性低色素性貧血と呼ばれるパターンを示すのが特徴です。
また、
慢性アルコール中毒を初めとするビタミン不足などの栄養失調で起こってくる貧血はRBCの減少の割にはHb,
Htの減少の軽い大球性高色素性貧血と呼ばれるパターンを示します。
一方、急性の出血に伴う貧血ではRBC、
Hb,Htの減り方がバランスの取れた正球性高色素性貧血と呼ばれるパターンを示します。

以上のパターン分類を数字で分かり易くしたのが、平均赤血球容積(MCV=Ht×10÷RBC)、
平均赤血球血色素量(MCH=Hb×10÷RBC)、
平均赤血球血色素濃度(MCHC=Hb×100÷Ht)という指標で、
それぞれ括弧内の計算式で算出されます。
MCVが減少した状態を小球性、増加した状態を大球性。 MCHの減少した状態を低色素性、 増加した状態を高色素性貧血と呼びます。 基本的にはMCHCも含めてこの3つの指標は平行して変動し、 そのパターンから貧血の原因について大まかなふるい分けが出来る訳です。
今回はここまでにします。 少し話がややこしくなったかも知れませんが、 反面、 検査の面白さを感じてもらえたら良いのですが・・・。
では、次回をお楽しみに。
血液学検査の話を続けましょう。 前回までは全身に酸素を運ぶという大切な働きを持つ赤血球についての話でしたが、今回は 白血球 と 血小板 についてお話ししましょう。
白血球というのは、血液中の主として免疫 (体外から侵入する病原菌やウイルスに対する防御機構のことで、 日本という国を人体にたとえれば自衛隊のようなものと考えると分かり易いでしょう) に関係する細胞の総称です。 白血球は更に好中球、好酸球、好塩基球(以上を顆粒球と呼ぶ)、 リンパ球、単球の5つに分類されます。 それぞれに役割がある訳ですが、 その点についてはここでは割愛することにします。 白血球の正常値は施設によってかなり差がありますが、 4,000〜10,000/µ リットルと考えるのが一般的でしょう。 3500あるいは4000以下を白血球減少と呼び、 10000ないし11000以上を白血球増多と呼びます。 白血球は細菌による感染、白血病、 心筋梗塞などで増加します。 病気以外にもステロイド投与中や運動後1時間ほどの間も白血球は増加するので病気と勘違いしないように注意が必要です。 一方、白血球はウイルスによる感染、腸チフス、 再生不良性貧血や顆粒球減少症(薬の副作用が多い!)などの血液疾患で減少します。 また、病気以外では放射線被曝、 抗癌剤投与などでも減少します。
私たちが怪我をして出血しても血が止まるのは、 この血小板があるからです。 血小板は血管壁の傷ついた所に集まって出血を止めるという大切な働きを持っています。 血小板も正常値が施設によってバラツキが大きく、 普通は15万〜35万/µリットル。 10万以下を血小板減少症、 40万以上を増多症と呼びます。 血小板増多は白血球の一部や多血症などの稀な血液疾患を除けば、 貧血の回復期や感染症の回復期などに一時的に出現する程度で、 臨床的に問題になることはほとんどありませんが、 血小板減少については、 紫斑病、 再生不良性貧血、 白血病、 血管内血液凝固症候群などの血液疾患をはじめ、 癌の骨髄転移、 肝硬変、薬剤アレルギーなど多彩な原因で出現します。 特に原因の如何に拘わらず、 血小板数が1万以下になると出血傾向を示すようになり、 血が止まりにくくなるので速やかな治療が必要になります。
以上、3回にわたり血液学的検査についてお話ししてきました。 多少なりともそれぞれの検査が何を知るためのものなのか、 分かって頂けたでしょうか。 では、 次回をお楽しみに。
検診などでお目にかかる機会の多い検査については前回までで大体説明出来ましたので、 今回から2回に分けて、 少し特殊な検査ではありますが 、献血などで結構ポピュラーな 肝炎ウイルス に関する検査についてお話ししましょう。
HBはB型肝炎ウイルスの略。sは英語のsurfaceの頭文字。 Agは抗原の略です。つまり、HBsーAgというのは、 B型肝炎ウイルス表面抗原のことです。
B型肝炎ウイルスに関する検査としてはこのほかに、HBsーAb(Abは抗体の略)、 HBcーAb(cはcore=芯の略)、 HBe−Ag及びHBe−Ab(eはcore内側の蛋白を示す)などがありますが、 今回はウイルス本体を反映すると考えられるHBsーAgを中心に話を進めることにします。
貴方が検診や献血などでHBsーAgが陽性と言われたら、
それはB型肝炎ウイルスが体の中に居るということです。
では、
即、
肝炎かと言うと必ずしもそうではないのです。

肝炎ウイルスの場合、
感染はしているのに発病しない状態が存在します。
医学的にこれを無症候性キャリアー(分かり易く言い換えれば保菌者)
と呼びます。そのため、感染イコール発病とはならないのです。
そして、
当然のことですが、キャリアーには発病した状態、即ち症候性キャリアーもあります。
要するに、HBsーAgが陽性よいう検査結果で分かるのは、 その人がB型肝炎ウイルスに感染しているということだけで、 発病しているかどうかやキャリアーかどうかについては他の検査が必要です。
発病した場合が肝炎ですが、 現実に普段医者に縁のない人にとって一番問題となるのは、 むしろキャリアーの方だと思います。 それは偶然発見されて本人や周囲の人が驚くことが少なくないからです。 肝炎については改めて触れることにして、 今回はキャリアーについて説明しておきましょう。
キャリアーか否かについては、 既述のHBsーAbの有無やHBcーAbの量から判断します。 キャリアーでは普通、HBsーAbが陰性、 HBcーAbは高値を示します。
キャリアーに関して一般の人が最も気にするのが人に移るかどうかですが、 血液が体内に入らない限り感染することはありませんから、 怪我をしたり鼻血が出た時(女性なら生理血に)に、 血液で汚れた衣服や生理用品の処理さえきちんとしておけば、 まったく問題はありません。 男性の場合は髭を剃る剃刃には注意が必要かも知れませんね。
さて、前回のB型肝炎ウイルスの話に続いて、今回は C型肝炎ウイルスの話をしましょう。
HCVとは、hepatitis C virus = C型肝炎ウイルスの略。
HCV抗体というのは、 C型肝炎ウイルスに対する抗体のことです。
HCV抗体は更に、 感度は良いもののウイルスの活動性の指標としては不向きな第2世代抗体 (後述) と感度は劣るもののウイルスの活動性の指標として優れるC−100やゴル抗体などの種類があります。
現在、
単にHCV抗体と言えば第2世代のことを指し、
陽性ならばC型肝炎ウイルスに感染しているか、
または感染したことがあるということが分かりますが、
残念なことに両者を区別することが出来ません。
普通はHCV抗体第2世代が陽性の人の85%がウイルスが存在する状態、
即ちキャリアーで、
残り15%が過去の感染を表すと考えられています。
そこで、 最近まではウイルスの活動性の有無については、 HCV抗体陽性の人のうち、 肝機能検査GPTが上昇している場合は活動性の肝炎があると考え、 正常の場合は活動性がない、 つまり、 無症候キャリアーと考えることになっていました。しかし、 最近、ようやくC型肝炎ウイルスの本体であるHCV−RNAというのが保険適応となりました。 これが陽性ということは生きたC型肝炎ウイルスが居るということですから、 かなり正確にキャリアーをチェック出来るようになった訳で、 C型肝炎撲滅に期待が持てるようになりました。
現在、 活動性のC型肝炎は放置すると10年で25%の人が肝癌になると言われています。 これは、 かなりの高率です。 進行してしまった肝癌の予後は多くを望めませんから、 C型肝炎の管理は、 いかに肝炎を鎮静化して肝癌への進行を遅らせ、 かつ、 いかに肝癌を早期に発見し、 治療するかにかかっていると言っても過言ではありません。
このため、 HCV抗体が陽性で、 かつ、 肝機能障害のある人は、 超音波検査やCTスキャンなどの癌早期発見のための定期的な検査を怠ってはいけません。
感染の予防については、 C型肝炎ウイルスもB型同様、 血液を介して感染するので、 血液に汚染されたものをきちんと処理さえしておけば、 まず人に移す心配はありません(B型のような母子感染がないことや、 セックスを介する感染がB型より多いなど、ウイルスの動態には違いがありそうですが・・・)。
なお、 HCV抗体は特に50代以上の人で、 輸出をしたこともない、覚せい剤や売春などの悪さをした覚えもないのに陽性と言われ、 首を傾げる人が多いのですが、 これは昔は注射針などの医療器具が今のように使い捨てではなしに再生して使用していたことに因ると考えられています。 検査を受けて、 異常を指摘された上に夫婦の絆にひびが入りかけた人もあるようなので、 そういう人々のためにこの場を借りて釈明をしておきます。
ポピュラーな割に、 その意義があまり知られていない検査の代表格は血沈ではないでしょうか。 今回は、その血沈についてお話ししましょう。
正しくは赤血球沈降速度(Erythrocyte Sedimentation Rate)。 別名、赤沈とも言います。
採取した血液に抗凝固剤クエン酸ナトリウムを加えてガラス管に入れ、 赤血球が沈殿していく速さを数字で表したのが血沈です。 1時間目と2時間目に赤血球が何mm沈殿したかを測定しますが、 実際には単に血沈値と言えば1時間値のことを指し、 2時間値というのは参考値程度の意義に留まるようです。
正常値は成年男子で10mm以下、 成年女子で15mm以下とされます。 そして、 男女ともに正常値以上25mm未満を軽度、 25〜49mmを中等度、 50mm以上を高度亢進とします。 なお、 血沈値は生理的変動として年齢とともに亢進するので、 中年期以降、 (50ないしは60歳以上)の男子で20mm以下、 女子で30mm以下は正常値と考えます。 また、 女性では生理中は多少亢進するようです。 一方、血沈値が1mm以下の場合は異常遅延の可能性があります。
血沈値が亢進を示すのは、
主に組織破壊を起こす疾患が存在する場合です。
肺炎などの急性感染症は勿論のこと
、結核などの慢性感染症、SLEや慢性関節リュウマチなどの膠原病、
各種の悪性腫瘍、心筋梗塞などで血沈は亢進します。
組織破壊を示す疾患以外では、
骨髄腫(骨の破壊は伴いますが)や高γ−グロブリン血症などの血漿蛋白の異常を来す疾患、
貧血を来す疾患などでも血沈は亢進します。
また、
これは病気ではありませんが妊娠中にも血沈は亢進を示しますが、
この場合は高度亢進を示すことはありません。

一方、
血沈の異常遅延を示すのはかなり特殊な状態が大半なので、
今回は病名の羅列のみにします。
多血症、
低γ−グロブリン血症、
播種性血管内血液凝固症候群などです。
以上のように、 血沈は多くの疾患で異常を示します。 それがかえって血沈の意義を分かりにくいものにしているのかも知れませんが、 実はこの多彩さこそが血沈の最大の特徴です。
何か病気があるかないかを調べるのに、 特別な機械の要らない、 こんなに簡便な検査はありません。 血沈が異常を示せば、 先に触れたような多彩な病気のいずれかが存在する可能性が高い訳ですから、 ふるい分けの検査としては最適です。 そして、 簡便な検査だからこそ、 何か異常が発見された場合にも、 その病気の経過や治療効果を追っ掛けるのに適しています。 この2点が血沈という検査が存在する意義なのです。